テレビのコメンテーターとしても活躍し、最近ではオンラインサロンやメルマガの配信など、執筆活動以外でも精力的に活動する作家・石田衣良さん。代表作は、長瀬智也さん・窪塚洋介さん出演でTVドラマ化された『池袋ウエストゲートパーク』。青春小説『4TEEN』で直木賞を受賞しています。経済をテーマにした『波の上の魔術師』や、人生やり直しストーリー『再生』など幅広いテーマで執筆されていますが、石田さんを語る上で忘れてはならないのが、「大人の恋愛」。石田さんの描く大人のラブストーリーは、時に情熱的に、時に切なく、男女の感じ方や考え方の違いを浮き彫りにします。今回は、大人の恋愛小説の名手・石田衣良さんのおすすめ恋愛小説を4作品ご紹介します。
様々な人の性と愛『娼年』
【あらすじ】
(出典:集英社文庫「娼年」)
恋愛にも大学生活にも退屈し、うつろな毎日を過ごしていたリョウ、二十歳。だが、バイト先のバーにあらわれた、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香から誘われ、とまどいながらも「娼夫」の仕事をはじめる。やがてリョウは、さまざまな女性のなかにひそむ、欲望の不思議に魅せられていく……。いくつものベッドで過ごした、ひと夏の光と影を鮮烈に描きだす、長編恋愛小説。
【ポイント】
松坂桃李さん主演で舞台化・映画化された作品。毎日を空虚に過ごしていた大学生が、ひょんなことからコールボーイとして働きだし、女性たちの深い欲望に気づいていくという物語です。設定だけ見ると官能小説のように見えますが、「自分と違う人をどう受け入れていくか」という大きな愛の物語です。趣味・趣向や性癖など、他人には理解されなくても、譲れないことってありますよね。愛とは、心から相手を理解し、受け入れること。異性同士だけではなく、同性同士であっても大切な、人を受け入れることについて、改めて感じさせてくれる作品です。
『娼年』シリーズは三部作で、『娼年』『逝年』『爽年』で完結です。
付き合うことだけが愛ではない『オネスティ』
【あらすじ】
(出典:集英社文庫「オネスティ」)
「どんな秘密も作らない。恋愛も結婚もしないけれど、心はいつも一番近いところにある。ほかの人を好きになっても、結婚しても、ずっと好きでいるけれど、赤ちゃんをつくるようなことはしない」カイとミノリは、幼き日に交わした約束を大切に守りながら成長していく。そんな二人の関係は大人になってもずっと続いていき――。人をどれくらい誠実に愛することができるのかを問う純愛的長編小説。
【ポイント】
「愛」の形は1つではないなぁと気づかされる作品。心の底から信頼し、お互い思いあっていても、男女の関係として付き合うことを選択しない幼なじみ同士の物語。人を愛することは、必ずしも「性愛」は必要ではないという、究極の純愛の姿が描かれています。自分にとって「愛」とはどちらを指すのか、問いを投げかけられる作品です。
恋愛を通して、自分の人生を考える『TROIS トロワ 恋は三では割りきれない』
【あらすじ】
(出典:KADOKAWA「TROIS トロワ 恋は三では割りきれない」)
新進気鋭の作詞家・遠山響樹は、年上のエステ経営の実業家・浅木季理子と8年の付き合いを続けていた。ある時、響樹は訪れた銀座のクラブで、ダイヤモンドの原石のような歌手の卵と出会った。名はエリカ。やがて響樹は、季理子とともにエリカをスターダムに押し上げようと計画するが、同時にエリカと恋に落ちてしまう……。絡み合う嫉妬と野心、官能。果たして三角関係の行方は? リレー形式で描く奇跡の恋愛小説!
【ポイント】
石田衣良さん・佐藤江梨子さん・ 唯川恵さんの3人の作家が綴った恋愛小説です。長い付き合いで安定感のある40代の年上女性か、新星のように現れて心をかき乱す20代の女性か、その2人の女性のはざまで揺れ動く30代の男性。登場人物の年齢や趣向が自分に近いかどうかによって、この物語の感じ方が違うのではないでしょうか。仕事・恋愛・そして人生。自分にとって何が大切か、自分の人生の目的は何か、恋愛を通して改めて自分の人生を見つめ直す作品です。
ただ好きなだけでは一緒にいられない、年の差恋愛を描いた『眠れぬ真珠』
【あらすじ】
(出典:新潮社「眠れぬ真珠」)
出会いは運命だった。17も年下の彼に、こんなにも惹かれてゆく――。孤高の魂を持つ、版画家の咲世子。人生の後半に訪れた素樹との恋は、大人の彼女を、無防備で傷つきやすい少女に変えた。愛しあう歓びと別離の予感が、咲世子の中で激しくせめぎあう。けれども若く美しいライバル、ノアの出現に咲世子は……。一瞬を永遠に変える恋の奇蹟。情熱と抒情に彩られた、最高の恋愛小説。
【ポイント】
長い間不倫をしていた45歳の女性作家が、ひょんなことが出会った28歳の年下男性に恋をしてしまう物語。自分自身がもう若くはない、激しく燃え上がるような恋愛は引退したと思っていた女性が、若くて魅力的な男性に深く求められ戸惑う一方で、愛されていることに幸せを感じてしまうという、相反する描写が秀逸。いくつになっても恋愛は人を成長させ、輝かさせるなぁと感じさせられます。
また、この作品の中で、石田衣良さんは女性を2つのジュエリーに例えています。光を外側に放つダイヤモンドの女と、光を内側に引き込む真珠の女。若い時にモテるのはダイヤモンドですが、年を重ねるごとに魅力的になるのは真珠だと言っており、主人公の女性はまさに真珠の女。自分の老いを不安に思いつつも、それを受け入れ、肯定していく姿に勇気がもらえますよ。
終わりに
石田衣良さんの描く物語は、時に恋愛から人生や自分の価値観を考えさせれられるようなテーマが隠されていることが多いです。人を愛し、受け入れることは、つまりは、自分を愛し、受け入れることなのだなぁと気づくはず。恋愛中の方にも、恋愛から離れている人にもおすすめの石田衣良さんの恋愛小説。他人への愛、自分への愛など、小説を読んで「愛」について考えてみてはいかがですか。