みんなと同じように生きられない、仕事も恋も両方取りができない、大切な人の本命になれない……私たちは誰しも人には言えない悩みを抱えて生きています。どんなに辛くても、どんなに大変でも、毎日ご飯を食べて生きていく。この作品は、3人の社会人がごはんを食べることで日々生まれ変わり、再び前を向いて歩き出す物語です。
『かしましめし』のあらすじ
28歳、独身、職なし。わたしを救う、ごはんがある。「私たちは何度も生き返る。小さく小さく、くりかえし生まれ変わる」 心が折れて仕事を辞めた千春(ちはる)。バリキャリだが男でつまづくナカムラ。恋人との関係がうまくいかないゲイの英治(えいじ)。同級生の自死をきっかけに再会をした、美大の同級生3人。つらくて心が死にそうになっても、みんなで集い、ごはんを食べれば生き返ることができる。それはとても温かで、幸福な時間――。ひとは食べる。嬉しい時も、悲しい時も。男女3人、にぎやかおウチごはん。「サプリ」「&」のおかざき真里最新作!簡単レシピもたっぷり収録。
『かしましめし』は、美味しく食事をとることや、誰かと喜びを分かち合うことなど、気張って日々を生きる社会人に対して力を抜いてくれるような、読むとホッとしたり、背中を押してくれたりする作品です。ちょっと疲れたなと思っているビジネスマンにおすすめしたい理由は3つあります。
『かしましめし』のポイント
食べることは生きること!おうちごはんでたっぷり身体に栄養を!
多忙な毎日を過ごすビジネスマンにとって、ホッと息をつける瞬間だったり、落ち着ける時間だったり、力を抜ける時は必要ですよね。自分の夢や希望に向かって努力する瞬間はそれを苦痛とも思わないですが、仕事は必ずしも楽しいことだけではありません。
時間に追われ、仕事に追われ、人間関係に疲弊した時や生きる気力を失いかけた時、人を救ってくれるのは「栄養のあるごはん」ではないでしょうか。まさに「食べる」行為は「生きる」ことです。
本作は、「生きるために食べる」物語。みんなで楽しみながら作って、ゆったりと料理を味わうことの大切さを思い出させてくれます。頭を空っぽにして無心でみじん切りをする。そのみじん切りを使っておいしい料理をたっぷり作る。作った料理を「おいしい美味しい」と言い合って食べる。ただ、おいしい料理を食べ、同じ時間を分かち合うだけで、人は元気になれたり、明日への活力がわいてきたりするのです。
仕事で失敗した時も、息苦しさを感じた時も、主人公たちが囲む食卓の豊かなこと。野菜たっぷりで健康に良い、そして何よりも簡単な大皿料理がたくさん出てきます。例えば、ホットプレートで作る「つつまない餃子」。ひき肉とキャベツなどを混ぜ合わせたものをタネにして餃子の皮の上に載せ、その上に、キムチとお餅をトッピングしたり、チーズを振りかけたり、トマトとパクチーを入れたり、思い思いの具材をトッピングし、上から皮をかぶせて焼く!たったこれだけです。食事で体の栄養をたっぷりと補給し、たあいもない楽しい会話で心の栄養を補給する。人には、身体の栄養だけではなく、たっぷりな心の栄養も必要なのです。
「素」の自分を開放して、心にも栄養を!
おうちごはんの良いところは、自分が食べたいように食べ、眠たくなったら寝れることと、飾らず、気取らず、気を使わず、ただ純粋に楽しめることです。損得なく、ただごはんを美味しいと言い合える、そんな存在は貴重ですよね。
本作に出てくる主人公3人は、会社も違えば、性別も違う、共通点と言えば大学の同級生という関係。血縁関係のない間柄だからこそしがらみがなく、気軽で自由な仲間です。「仕事って楽しい!」「毎日充実してる!」と体裁よく見せる必要もなければ、あえて言いたくないことを言う必要もない。社会や会社で求められている「役割」を脱ぎ捨てて、素の自分でいられるのです。最近、たわいもないことで笑ったり、おいしいものに感動したり、素の自分で過ごせていますか? 繕うことなく素でいられる時間が、現代に生きる私たちビジネスマンにとって必要なのかもしれません。
仕事・恋愛・結婚…女の生き方!おかざき真里の名言からも栄養を!
著者のおかざき先生は元・広告マン。バリバリ働き第一線で働いてきた過去があるからこそ、リアリティのある世界が描写されています。働く女性特有の、仕事や恋、結婚などの現実や悩みを赤裸々に描きだし、「女性の生き方」について考えさせられます。
主人公の1人・千春は、憧れの会社に入社したものの、酷いパワハラで心のバランスを崩し、会社に通えなくなってしまいます。自分にとって憧れの会社が、必ずしも自分にとって良い会社とは限らないですよね。特に、周りの人にとって、羨望の的の会社だった場合、そこを辞めるには勇気がいったことでしょう。
その一方で、その会社が第一志望だった3人の美大時代の友人・キクヨは落ちたことをきっかけに渡米し、デザイナーとして成功します。とはいえ、アジアが注目されている今だったからこその結果であり、プロモーションの一環で「たまたま」自分がハマっただけだといいます。
「たくましくないと!死ぬから!」(2巻p76)
千春は会社で心が限界になるまで戦い、死なないために生きることを選択し、キクヨは成功のためにどんな状態でもチャンスに食らいつく選択をしました。人それぞれ、戦う敵や向かう相手は違うかもしれませんが、みんな、何かを抱えて、この現代社会でたくましく生きています。
主人公の1人・ナカムラはバリバリのキャリアウーマン。社内の広報を担当する、花形の部署で着実に経験を積んでいますが、その一方で、同僚の彼に浮気され、婚約破棄をされてしまった過去も。傷ついた彼女は仕事に精を出すものの、世間一般的に良いとされている「結婚」という価値観に捕らわれ、社会的な義務や承認欲求として「結婚」したいと思っています。とはいえ、新しい恋に踏み出す程の勇気はなくて、どっちつかずな状態。
「傷つきたくなくて曖昧(グレー)にしとくと こじれた時に致命傷になるんだよ」(2巻 p55)
恋愛はこりごりと言いつつも、恋愛に憧れ、裏切られた過去があるから臆病になる。キャリアを積みあげた女性でさえも、恋愛で躓き、うまくいかないこともあるんだなぁと思います。傷つきたくないけど、求めずにはいられない……恋愛で苦い思いをしたことがある人には、共感できる内容かもしれません。
最後に
私たちは日々、喜んだり、悲しんだり、怒ったり、笑ったり、色々なことを経験して生まれ変わっています。体の栄養を補給しながら心の栄養を補給し、それを循環させて生きています。『かしましめし』は現代社会が少し息苦しい人に読んでほしい作品。
どんな壁にぶつかったとしても、しっかりとご飯さえ食べらたら、きっと大丈夫。まずしっかりと身体の栄養を取って健康になり、心の栄養もしっかり補給しましょう!きっとうまくいくはずです。