「フェアトレード」という言葉をご存じでしょうか。なかには、店頭でコーヒーやチョコレートなどを購入する際に、フェアトレードという表示やラベルを見たことのある人もいるかもしれません。しかし、フェアトレードの意義や歴史を正しく認識している人は、まだまだ少ないのが現状です。
ここでは、フェアトレードとは何か、そのメリットや問題点のほか、世界的なフェアトレード組織について、日常生活の中でできるフェアトレードの取り組みとともに解説します。
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フェアトレードは公正・公平な貿易
フェアトレードを直訳すると、「公正・公平な貿易」という意味です。SDGsの17項目すべてに直接的・間接的に関わり、「エシカル」「サステナブル」「オーガニック」などと並んで地球規模で環境を保全し、社会的な問題を解決するために重要なこととして注目されています。
まずは、フェアトレードの目的や、フェアトレードが始まった背景について確認しておきましょう。
対等=フェアな立場で取引すること
フェアトレードとは、経済的・社会的強者にある消費者と、経済的・社会的弱者である生産者が対等な立場で取引することです。
そもそも貿易とは、輸出する側と輸入する側の双方に利益をもたらすはずのもの。しかし、先進国と開発途上国とのあいだで行われる貿易では、しばしば「経済的な強者である消費者(先進国)には利益になるが、経済的弱者である生産者(開発途上国)は豊かにならない」という構造が生まれます。
この不平等をなくして公正な取引を行い、人々の生活を豊かにしようとするのが、フェアトレードの考え方です。
適正な賃金支払いなどの取り組み
私たちの身の回りには、低価格の商品がたくさんあります。しかし、その安い価格がなぜ実現できたのか、意識したことがあるでしょうか。
先進国の人々が手にする安価で便利な商品の背景には、生産者である開発途上国の人たちの、低賃金や劣悪な労働環境といった問題が起こっている場合があります。低価格を実現するために、途上国などでは正当な賃金が支払われなかったり、大量生産のために環境破壊につながったりしているのです。また、貧困のために児童労働者として働き、教育の機会を奪われている子供も数多く存在します。
このような問題を是正し、適正な賃金支払いや労働環境の整備、環境への配慮、地域の社会・福祉への貢献を目指すことも、フェアトレードのコンセプトです。
一方的ではない対等なパートナーシップによる支援
フェアトレードとは、決して先進国による一方的な支援や慈善事業ではありません。これまでの先進国による支援は、援助側の都合に左右され、継続的でないという問題がありました。さらに、支援されることで途上国の人々が働く意欲を失うといった、自立を阻む原因にもなっていたのです。
フェアトレードでは、生産者と消費者が対等なパートナーシップを結び、労働によって生み出される製品を、適正な価格で購入します。その取引を継続的に行うことで、生産者の自立や生活向上を促す支援となるのです。
フェアトレードの歴史
フェアトレードの始まりは、1940年代にアメリカのNGOが、プエルトリコの女性たちが作った手工芸品を販売したことだといわれています。
当初は貧困地域を支援するため、生産物を購入するチャリティー活動でした。その後、ヨーロッパに広がるにつれて、生産者の経済的自立を支援するフェアトレードへと変わっていきます。ただし、当初のフェアトレードには、生産物の品質という問題がありました。フェアトレードというと、「いまいちな商品なのに割高」のイメージがある人もいるのではないでしょうか。
生産者の経済的自立を支援したいと考える「倫理的消費者」は、あまり品質にこだわらない傾向がありますが、消費者全体で見るとごく少数。理念に共感して一度購入する人がいても、継続購入されなければ、生産者の経済的自立支援とはなりません。
最近では、企業やNGOなどが介入するなどして、品質そのものの価値が向上してきました。支援目的ではなく、品質でフェアトレード商品を選ぶ人も増えています。フェアトレード認証団体組織の活動によって、一般消費者にもフェアトレード商品がどれなのか、わかりやすくなってきました。
初めは手工芸品が中心だったフェアトレードも、現在では、コーヒーやチョコレート、砂糖、紅茶などの食品、衣類、ファッション雑貨、化粧品など、さまざまな商品が選べるようになっています。
フェアトレードのメリット
フェアトレードには、生産者と消費者だけでなく、商品を販売する企業や地球環境にもメリットがあります。具体的なメリットについて、詳しく見ていきましょう。
生産者と労働者の生活向上
開発途上国の生産者は、労働に対して不安定で低い賃金しか受け取っていない場合があります。フェアトレードによって公正な価格を提供できれば、生産者や労働者は、適正な賃金を得られるでしょう。
フェアトレードは、継続的な取引を前提とするため、生産者の生活が安定し、貧困の改善につながります。
児童労働や強制労働の減少
フェアトレードによって生産者や労働者の収入が増えれば、家族の生活が安定し、子供を強制的に働かせる必要もなくなります。子供は労働をせず学校に通い、教育を受けることができます。子供への教育は、貧困の連鎖を断ち切る非常に有効な手段です。
安心、安全な商品が購入できる
フェアトレードによって収入が安定した生産者のもとでは、品質向上のための取り組みが積極的に行われます。商品の付加価値を高めるために有機栽培を行うなど、安全性を追求するケースも少なくありません。
また、どこで、どんな人が、どのように作ったかがわかるため、安心して商品を選ぶことができるでしょう。
社会や環境への負荷が減少
農作物を安定的に安く大量に作るためには、大量の農薬や化学肥料を使う必要があります。大量の農薬や化学肥料は、環境汚染につながるばかりではなく、そこで働く人の健康にも悪影響を及ぼす可能性があるものです。
フェアトレードで適正価格での取引が行われれば、農薬や化学肥料を減らすことにつながり、自然環境や生態系を守ることができます。
途上国の経済成長
フェアトレードによって途上国の人々の収入が増えれば、地域経済が成長します。
安定した収入で暮らしが豊かになれば、治安水準が向上し、紛争などにつながるトラブルも減らすことができるかもしれません。
企業のイメージアップにつながる
フェアトレード商品を扱ったり、支援したりする企業は、消費者や株主などから「途上国を支援している企業」と好意的に見られます。
最近は、企業の評価軸にESG活動(環境や社会に配慮した取り組み)に積極的かどうかが加味されるようになりました。ESG活動の一環としてフェアトレードに関わることで、社会的なイメージアップを図ることができるとともに、サステナブルな社会の実現が目指せます。
サステナブルについてはこちらの記事もご覧ください。
フェアトレードの問題点
さまざまなメリットのある一方で、フェアトレードには、いくつかの課題や問題点も存在します。これらの課題や問題点を知った上で、フェアトレードについて考えることが重要です。
価格が高い
フェアトレード商品は、一般的な商品に比べて価格が高くなる傾向があります。要因としては、大量生産せず一つひとつ丁寧に作られていることや、最低価格が保証されていること、認証に手数料がかかることなどが挙げられます。
品質の安定が難しい
品質保持のための技術を磨く環境づくりが難しかったり、公衆衛生や空気汚染の問題で衛生管理が不十分だったりすることで、品質の安定が難しい場合があります。また、フェアトレードによって生産者の生活が保障されると、より良いものを生み出そうとする向上心を保ちにくくなるケースもあります。
誤ったイメージが先行することも
フェアトレードという言葉は、時に社会奉仕のイメージが先行することがあります。特に、「途上国の人々への募金や寄付のようなもの」といった誤ったイメージが広がると、フェアトレード本来の目的が失われる可能性があるでしょう。
単なる企業プロモーションになる可能性
企業がフェアトレード商品を取り扱うと、ブランドイメージの向上につながるメリットがあります。しかし、そのために、企業が単なるイメージ戦略としてフェアトレードを利用する可能性があります。一過性のプロモーションに終わっては、フェアトレードの考え方を広げることはできません。
基準が曖昧な場合がある
フェアトレード商品には、「FLO(国際フェアトレードラベル機構)」や「WFTO(世界フェアトレード連盟)」といった国際的な認証機関に認定されたものがありますが、企業や団体が独自に設定した基準で認証されたものもあります。
国際基準に比べて、企業や団体による独自基準は曖昧な場合が多く、本当にフェアトレードなのかわかりづらいことがあります。
世界的なフェアトレード組織
フェアトレード商品の中には、国際的なフェアトレード組織の認証ラベルやマークがついている物があります。続いては、代表的なフェアトレード認証組織について見ていきましょう。
FLO(国際フェアトレードラベル機構)
FLOは、その製品がFLOの定めるフェアトレード基準(国際フェアトレード基準)を満たしているかを認証しています。生産者に保証すべき金額など、定められた基準を守った製品には、国際フェアトレード認証ラベルを貼ることができます。
WFTO(世界フェアトレード連盟)
WFTOは、フェアトレード団体の世界的なネットワークです。WFTOに加盟し、定められた基準を満たしていると認められた団体は、フェアトレード団体を認証するWFTOマークを取得できます。なお、製品にラベルを掲載するには、別途認証取得が必要です。
日本にはフェアトレードに関する明確な基準がまだない
国際的な団体のほかに、NGOなどが独自基準でフェアトレード認証をしている製品もあり、特に日本で多く見られます。
中には、FLOやWFTOよりも厳しい基準が設けられている場合もありますが、購入の際は、商品や販売団体の情報をよく確認し、納得した上で選ぶようにしましょう。
私たちができるフェアトレードの取り組み
最近では、スーパーやコンビニなどでも、フェアトレード商品を見かけるようになりました。フェアトレードに興味を持ったら、次のような身近なシーンで取り入れることができます。
毎朝飲むコーヒー(お茶)をフェアトレード製品に
朝にコーヒーや紅茶などを飲む習慣がある人は、そのコーヒーや茶葉などをフェアトレード商品に変えてみてはいかがでしょうか。オフィスにコーヒーが常備されている場合、フェアトレード製品に切り替えられないか、社内で話し合ってみてもいいでしょう。
フェアトレードのコットンを使ったTシャツを購入する
Tシャツを購入するとき、フェアトレードのコットンで作られた物を選ぶのもおすすめです。豊かな風合いのシャツを身につければ、気持ちも明るくなりそうです。
フェアトレードのファッションについてはこちらの記事もご覧ください。
未来にちょっといい選択♪ 服から食品まで!トータルフェアトレードブランド「PeopleTree」
よく行く店にフェアトレード商品を置いてもらう
行きつけのお店や食堂にフェアトレード商品を扱ってもらえないか、働きかけてみるのもひとつの方法です。店頭に商品を置いてもらうことで、自分が日常的に購入できるのはもちろん、ほかの来店客にもフェアトレードについて伝えることができるでしょう。
友人の誕生日プレゼントにフェアトレード商品を贈る
フェアトレード商品は、ギフトにも最適です。親しい友人へのプレゼントにフェアトレード商品を贈れば、選んだ背景などから会話が弾むきっかけにもなるのではないでしょうか。
プレゼント用のフェアトレード商品についてはこちらの記事もご覧ください。
バレンタインのチョコレートをフェアトレードのカカオを使った物に
チョコレートは、フェアトレード商品の中でも特に人気の高いアイテムです。年に1度のバレンタインには、フェアトレードのチョコレートを贈ってみてはいかがでしょうか。大切な人への気持ちも、より伝わりやすくなるはずです。
フェアトレードのチョコレートについてはこちらの記事もご覧ください。
カカオ豆の産地を知る〜フェアトレードチョコレートという「おいしい選択」
母の日や父の日などにフェアトレードのフラワーギフトを贈る
フェアトレード商品の中には、カーネーションやバラなどの切り花もあります。両親へのプレゼントにフェアトレードのフラワーを選ぶことで、身近な家族にも途上国が抱える問題について知ってもらうことができます。
身近なところからフェアトレード商品を取り入れてみよう
フェアトレードには、途上国の人々の労働環境の改善と生活の安定、児童労働の減少など、さまざまなメリットがあります。また、フェアトレード商品には丁寧に作られた物も多く、本来の目的に加えて、「おいしいから」「おしゃれだから」という理由で選ぶ人も少なくありません。
最近では、フェアトレード商品の種類も増え、さまざまなアイテムを気軽に購入できるようになってきました。スーパーなどでフェアトレード商品を見かけたら、積極的に手に取ってみてはいかがでしょうか。